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- 『へとへとなの』
はぅ〜と息を吐きながら俺の腕に寄りかかってくる
本当は俺も疲れていたけど
「……まあいいか」
とそのままにしておく。
演劇部の公演まで一月(ひとつき)を切ったので最近はとても忙しい。
去年から作っていた大道具はなんとかめどが立ったものの
小道具の製作や演技指導などでみんな休む暇もない。
特に深山部長の気迫は凄まじい物がある。
今日も午前中だけで終わるはずだったのに気がつけば午後の二時だった。
…でもそれだけ充実してるって事だし、悪くないか。
澪と一緒に居られるのなら。
「…澪」
澪は視線だけこちらに向けた
「どっかで昼飯食べて行かないか?おごるぞ」
顔がぱぁーっと明るくなる
「よし、何がいい?」
う〜んっと考えた後さらさらと書き始める
『イチゴ』
「…マジ?」
うんうんと頷く
「あんなに小さい物でおなか膨れるか?」
『いっぱい食べるからへーきなの』
にこにこと笑顔で見つめる澪
「そうか、ならいいけど…問題はどこで食べるかだな」
「……」
「…!よし行くぞ、ついて来い!!」
澪はおーっとスケッチブックを高く上げる
そして俺達は走り出した。
走る事数分、俺達は目的の店に辿り着いた。
変色しきった看板に書かれた文字『めしや』
そう、以前に七瀬と来た店だ。
心配そうな目で見つめる澪を無視してガラガラとドアを開けた。
「こんにちは」
「おやおや、久しぶりだねぇ」
「どうも」
俺は会釈をする
「留美ちゃんもいるのかね?」
「いや、今日はいません。でも元気にしてますよ」
澪は俺とおばあさんの関係をはかりかねているようだ。
視線は俺とおばあさんを行ったり来たりしている。
「おや、後ろにいるのは誰だい?」
「澪っていって部活動の後輩です」
「ほら、自己紹介だ」
『上月澪』
『よろしくなの』
笑顔で自己紹介する。
「そうかいそうかい、かわいい子だねぇ」
澪はおばあさんに頭を撫でられ恥ずかしそうにしている。
それでもどこかうれしそうだ。
おっと肝心な用件を忘れていた。
「ところでおばあさん」
「ん?なんだい」
「前に来た時お腹いっぱいで食べられなかったやつ
まだ残ってますか?」
「おや、あの時のはもうないけどまた息子が送ってくれたからね
たくさんあるよ。あたしの大好物だからねぇ」
『甘いのだいすきなの』
「ほおそうかいそうかい、ささ、お上がり一緒に食べようじゃないか」
『たくさんたべるの』
そして俺達は奥の座敷へと案内された。
俺達は三人で食卓を囲む
「……」
「どうした澪?食べないのか?」
「……」
正座したまま両手を握り締めてひざの上に置く澪
視線は机の一点に集中している。
そこには
「大好きなんだろ?」
「イナゴ」
たっぷりとイナゴの佃煮が並べられている。
「……」
澪は涙目になっている。
「ささ、たーんとお食べ」
「そうだぞ、早く食べないとのびるぞ」
「おやまあ、のびないんだけどねぇ」
「ははっ、そうでしたね」
澪は俺とおばあさんの和やかなやり取りを
上目遣いで見つめるが食べる気配は無い。
「…もしかしてお腹痛いのか?」
ぶんっぶんっ
「どこか調子悪いのか?」
ぶるんっぶるんっ
だめだ、さっぱり分からない。
――こんなとき七瀬なら…
七瀬は立ち上がるとイナゴが入った容器の中に
片手を突っ込んだ。
「どりゃああああー!」
イナゴをわしづかみにすると一気に口へと運ぶ。
ボリ!ボリ!バリバリ!
…パラパラとイナゴの足や頭が七瀬の口からこぼれ落ちる。
ゴクン!
「食べないのなら私が食べるわよおおおお!!」
第一陣を一気に飲み干すとすぐさま次のイナゴを掴み食べ続ける。
まるでバケモノだ。
そしてすべてを食べ終わった後
「なめるんじゃないわよ……」
「七瀬なのよ…私……」
と啖呵を切ってくれるに違いない。
うん、きっとそうだ。
「ささ、早くお食べ」
おばあさんはイナゴを箸でつまむと澪の口へと近づける
「はいよ、あーんしてごらん」
澪は下を向いたままなかなか顔を上げない
「……」
「おやおや、恥ずかしいのかねぇ」
おばあさんの笑顔がまぶしい。
これを断れる人間はいないだろう。
澪はぎゅっ!と目を瞑り口を大きく開けるのであった。
fin
ぱくっ
もごもご
「……」
――あ
『おいしいの』
おしまい。
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